1.IPv6とは

 日本が他国に先駆けて開発に携わってきたIPv6というインターネット上での新しい取り組みが本格化してきている。そもそもIPとは何かというと、インターネットの中心をなす通信規約のことである。ネットワーク上の各ノード(ネットワークに接続されているコンピュータやハブのことである。)に割り当てられたIPアドレスをベースとして2つのノード間で通信するものである。ホームページを見たり、電子メールをやりとりするといった、普段ネットを利用する場面にて、一般のユーザーがIPアドレスを意識するといった機会はほとんどないだろう。しかし、インターネット電話のようなネット上のアプリケーションを利用したときに、「どうして相手は、自分と特定でき、メッセージを送ったり音声を交わすことができるのだろう?」と疑問に思うようなケースが出てくるだろう。IPアドレスの重要性がここに出てくる。パソコンなどの機器(ネット端末)に割り当てられたIPアドレスは世界中で同じものは2つとない。すると、ネットに接続する機器が増えるにつれ、個別に割り当てるために膨大なIPアドレスが必要になってくる。現在のインターネットはIPv4(Internet Protocol ver.4)により運用されているが、世界中の人々がIPアドレスを1つずつ使ったらその時点で足りなくなる。ましてや人によってはたくさんの機器をネットに接続させたい人もいるため、1人でたくさんのIPアドレスを必要とするから、ますますIPアドレスは不足する。この問題を解決するのがIPv6である。

 2.IPv6の特徴

 2.1 アドレス数が大幅に増えた
 IPv4のアドレスは32bitなのに対しIPv6は128bitの広大なアドレス空間を持つ。IPv4は約40億のアドレスを持つが、世界中のすべての人に割り当てるとなるとその数は不足する。IPv6になると、一人が使えるアドレス数は5600兆×100兆という膨大な数となる。ちなみに、128bitの内の前半64bitと後半64bitでは役割が違う。IPv6アドレスでは上位64bitはネットワークの識別子として使われ、下位64bitはそのネットワークにおける機器の識別子として使われる。さらにアドレスに階層を持たせ、アドレス自身に経路情報を持たせ経路情報を集約することができる。いわゆるピラミッド構造にし、アドレスを見ただけでどの経路に接続されているかが分かるような表記にしている。何故128bitが選ばれたかについては、現在普及しているCPUの処理単位が32bitでその整数倍でありCPUでの処理がしやすいこと、またアドレス自身を階層化することでいろいろな種類の経路制御ができる余地を残すことが考えられていたからだと思われる。

 2.2  プラグ・アンド・プレイ
 IPv4でもこれを実現する技術は普及しているが、標準機能ではなく管理者が設定しなければ活用できない仕組みだった。IPv6ではパソコンがIPv6アドレスを自動的に生成する仕組みを持ち、さらに最も頻繁に利用するルーターのIPアドレスも、自動的にルーターから取得できるようになっている。

 2.3 始めから暗号化と認証機能を備えている
 IPsec(IP security protocol)と呼ばれる暗号・認証プロトコルを標準装備している。コンピュータが送信する段階で暗号化・認証機能を組み込めるので、容易にデータを内密にでき、通信相手の正当性もチェックできる。しかし、IPsecはIPv4でも運用が始まりつつあるが、IPsecを備えていない機器もたくさん使われているため、まだ普及しているとは言えない。

 2.4 ルーターの負担が軽くなる
 インターネット上でルーターが効率よくパケットを中継するための工夫が施されている。具体的な仕組みとして、1つはIPアドレスの割り当てが経路制御を効率よく実施できるように配慮されている。もう1つはパケット中継の処理を軽くした事。通常のヘッダーは固定長とし、認証機能などを使う場合には専用の拡張ヘッダーを動的に組み込むようにした。またIPv4と違ってヘッダーのエラーチェックをなくしたのでルーターの処理負担が軽くなった。

 2.5 トンネルについて
 パケットをそのまま送らずに別のプロトコルのパケットで包んで送る技術のことをトンネルという。このような技術がなぜ必要かというと、IPv4でしか通信できないネットワークを飛び越してIPv6のパソコン同士をつなぎたいというニーズによるものであるからだ。例えばIPv6の運用を始めても、ユーザーもインターネット接続業者(プロバイダ)も全ての設備をIPv6対応に置き換えるのは難しい。ネットワークの一部にIPv4ネットが残ることは避けられない事が多い。こんな時にトンネルを用いると、IPv6パケットをIPv4パケットで運ぶので、IPv4ネットワークを介してIPv6パケットを中継できる。すなわち、IPv4のインターネットを使う環境でも、IPv6ネットを構築したりIPv6ネット間でIPv6パケットをやりとりできる。 トンネルはあくまで論理的なIPv6専用回線をつくるだけなので、トンネルを使うために新しい回線を用意する必要は無い。IPv4ネットとIPv6ネットの境界点付近にトンネルサーバーと呼ばれるものを設置すればよい。(入り口と出口にトンネルサーバーを置く。)パケットがトンネルサーバーを通過すると、パケットはカプセル化されたり、カプセル化を解除されたりする。ここで注意すべき点が1つある。それは、中継網となるIPv4ネットワークでアドレス変換機能を使わないようにするということである。なぜなら、IPアドレスの変換機能(NAT)とIPアドレスとポート番号の両方を変換する機能(NAPT)というものがあるが、NAPTはパケットの中にIPv4のTCP/UDPポート番号がないと働かないからである。通常のIPv4パケットは、IPv4ヘッダーの後ろにIPv4のTCP/UDPヘッダーに続き、ここにTCP/UDPポート番号が現れる。一方、カプセル化されたIPv4パケットでは、IPv4ヘッダーの後ろにIPv6ヘッダーが続く。カプセル化されたパケットを受け取ったとき、NAPTはIPv4のTCP/UDPポート番号を見つけられずに動作出来ないのである。NAPTを使っても、NATを同時に動かせば場合によってはトンネルがきちんと動作するかもしれないが、うまく動かない事の方が多い。

 3.IPv6でどのように変わるのか

 では実際にIPv6が使われるとどのように変わるか。いくつか例を挙げてみようと思う。

@. IPv4を使うと冷蔵庫や電子レンジをインターネットに繋げ、インターネット上にある料理のレシピを動画でブラウジングしたり、色々なサイトの情報を取得することができる。しかし、IPv6を使うとこれらの冷蔵庫や電子レンジにグローバルアドレスを割り振ることによって家の外から操作することができる。
    
A. ホームセキュリティーについては、窓の各所に配置されたセンサーとカメラは異常物体の侵入をキャッチし、センターの監視員はカメラの首を振って周辺状況を監視し、それの確認をする。IPにより伝送・取得できるデータならそれを読み取って別の異常物体の動きなのかを分離識別するアプリケーションも開発することができる。

B. 医療現場では遠隔地からの診断が可能になる。検体を保管庫から取り出したり、プレパラートの操作や倍率の調整が遠隔地にいる専門の医師や研究者の手によって自由に行うことができる。

C. 家電製品がIPv6対応になると、その家電製品にメーカーが直接アクセスすることができる。予め、その家電製品にリモートでメンテナンスすることを想定して必要なデータを生成するような仕組みを組んでおけば、メーカーは自社からその家電製品の状況を直接モニターし、処置を施すことができる。

 4.終わりに

 終わりに、調べてみて感じたのは、IPv6になると企業やエンターテイメントなど幅広い分野におけるビジネスの拡張性が見いだせるように思えた。例を4つほど記述したが、それ以外にも今までには考えもつかなかったようなことができるのではと思った。完全にIPv6が普及したとき、我々の普段の生活様式や企業のビジネスが今とはまったく違ったものになるのではないだろうか。

 5.参考資料

 日経BP社 ITPro ipv6start.net内 わかる・できるIPv6ネット HP

http://itpro.nikkeibp.co.jp/free/v6start/

 Biz Tech Special IPv6 HP

http://premium.nikkeibp.co.jp/ipv6/

 JMR生活総合研究所 マーケティング用語集 HP

http://www.jmrlsi.co.jp/menu/yougo/my09/my0910.html

日刊工業新聞社  IPv6ネットワーク構築ガイド 中川晋一監修 土池政司編著